有限会社人事・労務

医療法人 井上整形外科

※月刊『近代中小企業』 特集〜第二創業は現状打破!本気で「続ける」経営〜より抜粋

■経営課題

初代院長の時代から、地域に密着した医療機関として多くの患者から厚い信頼を集めていた井上整形外科。

2代目の井上惣一郎院長に受け継がれた後も、その信頼は崩れることなく良好な経営を続けていたが、井上惣一郎院長は、初代からの安定経営に甘んじることなく、2代目としてさらに強固な組織を実現し新たな時代を築きたいと望んでいた。

また職場全体で、新旧スタッフの価値観の違いや意識のギャップが目立ち、医療サービスに対する考え方や患者への接し方も一人ひとり異なる状態であった。「明るく心のぬくもりある地域密着型整形外科」の実現のため、組織が同じベクトルのもと一体となって取り組む必要性が増していた。

■第二創業へのステップ1

「スタッフとの信頼関係構築」と「職場内のコミュニケーションの円滑化」、それによって次のステップに進む時が来ていると考えた井上院長は、弊社のアドバイスのもと、「アクティブミーティング」をスタートすることにした。

アクティブミーティングとは、職場内でいくつかのグループを編成し、問題点の改善や効率化のために対策を立てて自主的に実行する活動のことを言う。原則として全員参加で行ない、単発ではなく半年〜1年の間で定期的にミーティングを開催し、問題解決のために継続して取り組んでいくことに特徴がある。

井上整形外科では、「来院する患者さんの満足度向上」というテーマを掲げ、部署に関係なく全スタッフを2つのグループに分けて、活動をスタートした。そして各グループでは、現状での問題点を洗い出した上で、テーマに基づいた課題設定をした。

あるグループでは、「待ち時間の短縮」という課題を設け、診療やリハビリを待つ患者の待ち時間を如何にすれば短縮できるのかを検討した。

その結果、スタッフ同士、部署間の連携が必要、との仮説を導き出し、“受付→診療”“診療→リハビリ”といった流れの中でのスタッフの動きを見直して新たなフローを作り出した。

もう一方のグループでは、「待ち時間そのものを充実させれば患者さんの不満解消につながるのでは」という仮説のもと、待ち合いスペースに世代に合わせたバリエーション豊富な書籍・雑誌を置いたり、診察後に身だしなみを整えるための着替えスペースを確保したりと、さまざまな工夫改善を行なった。

また、改善度合いを測る指標として、日々の来院者を時間ごとに計測し、どの時間帯が混むのかを把握すると共に、3ヵ月ごとに来院者を対象とするアンケートを実施した。アンケートの内容は、「待ち時間がどの程度だったか」「それに対する満足度」「その他の要望」。初回のアンケート実施時は待ち時間1時間30分や2時間といった患者もいたが、回を重ねるごとに時間が短縮され、概ね30分程度におさまるようになった。

■第二創業へのステップ2

アクティブミーティングでは、必ず最後に成果報告の場を設ける。井上整形外科においても、年間を通した活動の後、成果報告と慰労を兼ねて美味しい食事を囲んだ発表会を行なった。

井上院長は、この発表の場に取引業者や薬局等の関係者を招待した。

当初、このように外部の人を呼ぶことに対してはスタッフから反発の声が上がっていた。

しかし、発表会の中で第三者の視点から改善に対する大きな評価をいただいたことで、長期にわたる活動の成果を認識でき、スタッフにとって大きな自信につながったようだ。

また、来院者の時間帯の計測を通して、新たに「土曜診療」や「若年層」のニーズを探り出し、次年度は、「土曜診療の実施」や「ホームページ作成による潜在的な患者層の発掘」を新たな課題として設定し、継続して取り組んでいる。

「患者満足度の向上」という大きな課題にスタッフ一丸となって取り組むことによって、個々のスタッフの中に主体性や積極性が芽生えた。

そして各々の立場で「患者さんのために何をなすべきか」を考えて行動に移す組織風土が創られた。

それが、ひいては井上院長とスタッフ層の信頼関係、組織内の円滑なコミュニケーションの構築につながり、患者をはじめ関係各者に伝わり認められることで、医院としても新たな成長段階に入ったと言えるだろう。

■成功したポイント

  1. コストのかかる大掛かりなシステム導入等に頼ることなく、「コミュニケーション」というソフト面からの体質改善から取り組んだ点
  2. アクティブミーティングを通してスタッフ全員が現状に対する問題意識を共有し、主体的に問題解決に取り組んだ点
  3. 問題の解決を原因と結果という対処療法による解決法でなく、組織の「気づきの力」「改善力」の高さという組織の全体に働きかける体質改善を目指し根付かせた点