アミタホールディングス株式会社 様
「評価しない」人事制度の構築へ
アミタホールディングス株式会社は、「この世に無駄なものなどない」という信念のもと、持続可能社会の実現に真っ向から向き合っている会社です。資源循環やエコラベルの認証審査といった産業の環境化事業に加え、地域社会の課題解決に寄与する事業展開は「まさにゼブラ企業」という印象を受けます。今回、新たに人事制度構築をするに至った背景や、作成の意図について、代表取締役社長兼COO佐藤 博之さんに話を伺いました。
本当の意味での豊かさや幸せとは何か?
―これからの時代は、利益を追求するだけではなく、地域や社会の課題を解決する企業が伸びていくと思っています。社会貢献という考えと、人事制度をどのように結びつけていったら良いのかというのは、我々としても非常に注目しているところです。アミタさんにはそういった観点から話を伺いたいと思います。まずは2021年から始まる3カ年計画で、会社としてどんなことに挑戦していくのかというところから教えていただけますか?
佐藤:アミタグループとしては、これまでもいろいろな形で社会に変革をおよぼそうと思って、新しいチャレンジをしてきました。今回改めて社会デザイン事業ということで見直しを行ったのです。もともと「持続可能社会の実現」ということは掲げていましたが、さまざまなテーマの柱があり、統合できていない部分もありました。テーマを決めて分業していく部分最適では、いまの社会課題はなかなか解決しませんし、本当の意味での豊かさや幸せが実感しにくいと思うのです。例えば、移動という面ではリニアモーターカーができました。数十年前と比べて経済的には非常に豊かになり、多様なニーズは満たせているはずです。しかし自殺する人が毎年たくさんいらっしゃることを考えると、本当に幸せになったとは言えないと思います。
結局部分的にサービスを提供するだけではダメで、統合的に世の中のデザインをしていく視点が必要です。我々が個別の企業や地域に提供しているサービスも、「暮らし」という点では共通しています。改めて、縦糸と横糸を組み合わせていくような形で、社会をデザインしていくことを掲げ、統合的な事業サービスをしていくことに挑戦しています。「価値創造」や「挑戦」というのは、単純に価格が安くなればいいとか、リスクが減ればいいということではありません。単純ではないので難しいのです。人は買い物一つとっても、値段や品質などさまざまな要素を考慮しています。単純な意思決定はありません。
改めて、世の中にとっての価値を考えて、我々なりの答えを見つけないといけないと思っています。簡単ではありませんが、そうしなければ、世の中はよくならないと思っているわけです。例えば、クリーンエネルギーさえ広がれば世の中はよくなるのでしょうか? それは違うと思います。それだけを単体でしてもダメなのです。極端に言えば、「地球温暖化が止まっても、人間が不幸になってもいいのですか?」という話です。そこまで突き詰めて考えたいと思っています。そういうことが人事制度にも結びついていきます。
―アミタグループの方とお話をすると、若い社員さんもかなり高い視座を持って事業に取り組んでいることに驚きます。その思考パターンというのは、どのように浸透させているのでしょうか。
佐藤:若いほうが頭はやわらかいですし、その間に思考のくせや世の中を見る視点を養っていく必要があります。人間はどうしても目の前にある報酬のほうに意識がいきがちです。もちろん会社ですから短期的な収入も必要ですが、それだけでは未来は作れません。そういう考えが、新しい人事制度にも反映されていると思います。
―会社として、総合的なサービスをしていく上で、規模感の話もされているのですか。
佐藤:会社の規模についてはほとんど話すことはありません。ただ会社の影響力はもっと大きくなっていくべきだと思っています。「知る人ぞ知る」では社会的な影響力があるとは言えません。Appleとまでは言いませんが、規模が小さくても記憶に残るような影響力をつけたいと思っています。「社会を変えよう」と言っている会社なのですから、そうならないといけませんよね。もちろん社員の数も増えて、収益だってもっと上がらないと現実的には難しいです。利益は評価の裏返しですから。ですがそれは手段であって、目的ではありません。
―社会課題を解決したいということは昔から言われていましたが、その一方で収益を上げることに関してはメッセージを出されていますか?
佐藤:私は毎週「雑記」と評して、全社員にメッセージを出しています。そこで社員に「あなたにとって会社ってどんな存在ですか」と、いくつか答えの選択肢を出して聞いてみたのです。これは反響が大きくて、たくさん返事がきました。その中で「自分の夢や志を実現する存在」「仲間といっしょに何かを成し遂げるための存在」という2つをあげる人が大勢いたのです。おそらくそういうことを思っている人間ではないと、アミタに合流(入社)してこないと思います。もちろん「生活の糧を得る場」という側面もありますが、社員は、いま申し上げたことをやるためにアミタにいると思うのです。利益とミッションを天秤にかけているわけではなく、会社と社員の思いが重なっているわけです。自分の夢や志を実現する」「仲間といっしょに何かを成し遂げる」という想いがあってこそ、アミタに合流してくれるし、働いてくれていると思います。平たく言うと、持続可能な社会をつくり、世の中をよくしたい。もっと多くの人を幸せにしたいという想いのために汗水流して働いているのです。それを形にするために利益が必要という認識です。
―ここ数年で世の中の流れがだいぶ変わりました。世の中がアミタさんのしていることに追いついてきたという印象を受けます。実際に、10年前と比べて若い人たちの意識が変わったと感じることはありますか?
佐藤:私がアミタに合流したのが2008年です。その当時から、人材募集をかけたら、多い年で6,000人くらいの応募がありました。ある意味特異なことをしていたので、若い人たちを惹きつけていた部分はあると思います。今はSDGsや、ESG投資が普通の雑誌や新聞にも出るようになり、世の中のメインストリームになってきていると感じます。ここ3〜4年くらいの変化はものすごく大きいです。そういった会社も増えている中で、我々の存在理由や、成すべきことを尖らせようとしています。目標を掲げるだけだったら誰でもできるので、実現してナンボです。
短期的な評価を手放すことで見えてきたこと
―今回評価制度を大幅に改定されました。弊社も設計に関わらせていただきましたが、佐藤さん自身が、人事制度でやりたかったことを改めて教えていただけますか?
佐藤:とにかく「評価」をやめたかったのです。最初の動機設定もそこにあります。先ほどの話ともつながっているのですが、我々はみんなアミタで何かやりたくて入ってきているわけです。もちろん給料が少ないよりはたくさんもらったほうがいいに決まっていますが、成果主義で評価された結果、給料が上がったり、下がったり、昇進したりしなかったりすることに抵抗感がありました。「評価されるから成長する」という考え方がアミタにそぐわないと感じたのです。「評価されるからがんばる」「評価されたいから努力する」という考えには違和感を拭えません。日本は90年代くらいから成果主義や評価制度を無理やり導入し、失敗している企業もたくさんあります。日本人には成果主義はなじまないと思うのですよ。先ほど会社の存在意義を、「仲間といっしょに何かをなすため」と答えた社員が多いと言いました。そういう気分って、日本人の多くが持っているものではないでしょうか。短期的に成果を上げたり、儲けたり、「あなたの能力がこれだけあがったね」と評価することは、アミタの目的にあまりヒットしません。そこに使う労力や時間を減らして他のことに向けたいと思い、今回評価制度を廃止しました。もちろん、等級が上がっていくときに基準を満たしているかを確認するポイントはありますが、短期的な評価にとらわれないようにしたのです。そうしたら社員から、「これまで半期ごとの評価を気にして、目標達成のために仕事していたのが嘘みたいです」と喜ばれました。それがうれしかったのですよ。 基本給は少しずつ上がっていきますから、目先の評価は気にしなくていいと思っています。それよりも、夢や志という長期的な目標達成に向かって挑戦し、大きく成長して、大きく貢献してほしいのです。やりたいことが仲間とできるようになる。そしてそれが達成されていくという、挑戦と成長を見ているわけです。
―先ほどの、「高い視座を持って働く」ということにつながりますよね。人は半年後の評価を気にすると、目先の数字など細かいことにとらわれてしまいがちです。「半期では評価が変わりませんよ」というだけで、かなりチャレンジがしやすくなるのではないでしょうか。本質的なことも見えるようになると思います。そういう意味では狙い通りになっているなと感じます。
佐藤:評価に一喜一憂したり、「チャレンジして失敗したら給料が下がる」と思ったり、「みんなに迷惑をかける」といった思考性が働かないようにしています。もちろん失敗をおそれる気持ちは誰でもありますが、短期的な評価に結びつけなければ、のびのび挑戦できると思っています。
―経営者にとって、人事権は伝家の宝刀というところがあって、なかなか手放すのは怖いという人も多いと思います。評価制度をなくすことに対して、上層部の反発はありませんでしたか?
佐藤:アミタにはそういう思考回路の人間はほとんどいないのではないでしょうか。それよりも「評価が嫌」という人が多いですね。その前の段階でチーム評価にしていたこともじわじわとは影響していたとは思います。経営者仲間にこの話をしたら、「評価をやめたいけどできないんです」と言っていました。
―評価をやめたときに、チームの一人ひとりが自覚をもってチャレンジしていかなければいけないと思います。チームの働き方として意識されていることはありますか?
佐藤:一時期、個の成績を重視して評価したことがあったのです。「やれば成績が伸びる」「売り上げが伸びる」という状態のときは評価制度もありだと思います。要はわかりやすい儲け方があって、工夫すれば売上が伸び、評価も高くなるという時期です。当社も10年以上前はそうでした。営業がガンガン売って「あいつはすごい!」と言われた時代もあったのです。そういう仕事であれば、「評価」という側面があってもいいのかもしれません。ただそんなにシンプルな話ではないのです。今のアミタのように、価格競争の領域に入るものではなく、考えて「本当の価値」を提供するということになると、個々の能力だけでは達成できなくなってきます。みんなで知恵を出し合い、違った力を束ねて、上位のソリューションを生み、提案することが大事になってくるのです。一人ではできないことが増えて、力を合わせないと良い仕事ができなくなっています。時代の移り変わりもありますが、アミタとしては、チームやグループでいっしょになって大きな成果を出していくことを、さらに強調しています。自分を律して、役に立とうとすることは二律背反することではないと思います。その中で自分の役割を主体的に考えるということです。
―多様な働き方になっている中、社員の働き方という点で、今回の制度にこめた想いというのはありますか。
佐藤:今回コースを3つにしましたが、それに関しては今も悩ましく思っています。前の制度では、正社員は、価値創造を行うコース(いわゆる総合職)1つでした(現:価値創造職)。今回は、それに専門性を発揮して価値創造をするコース(高度専門職)と価値の増幅と生産性の向上に貢献するコース(価値生産職)を加えたのですが、正解だったかどうかはまだわかりません。
みんなが得意とする領域ではないところでがんばっているわけですから、それができないからダメだというふうにはしたくない。例えば「リーダーシップを発揮するのは苦手だけど、コツコツと製造現場の改善を積み重ねることで全体の価値創造に貢献する」という役割があってもいいのではないかという想いで評価制度の中に新たなコースを作りました。
いろいろな力を発揮できるようにしたいと思っていたので、名前のつけかたもすごく難しかったですし、責任も感じています。コツコツ確実に会社を良くしていくのも大事ではないですか。仕事として、事業としてやっている以上は、そういう方々が報われるような仕組みが必要かなと思いました。
―私もいっしょに制度作りをさせていただく中で、それが非常に難しいところだなと感じました。コース分けすると上下関係が生まれてしまいます。佐藤さんは、そのコースを決定するまでの面接がものすごく丁寧にされていましたよね。コースを決めるときのご苦労もお聞きしたいのですが。
佐藤:上司はサジェスチョンだけして、最終的なコースは自己決定に委ねました。ただ給与には差をつけたのです。いわゆる価値創造職が中心なので、改めて社員が「もっと価値創造に関わることをしないといけない」と思ってくれるとうれしいです。ただ人間はそう簡単にかわらないので、そのあたりの心配はあります。
とくに難しいのは年齢がそれなりに高く、役職者のほうが年下というケースです。こういうケースも最近増えてきました。若い人間は、いろいろな可能性があると自分もまわりも思っています。ベテランになるほど過去の成功体験からなかなか抜け出せないもので、そういう人にどう、答えのない新しい挑戦に取り組んでもらうか、がいちばん難しいです。
―確かにそうですよね。賃金制度についてはいかがですか?
佐藤:年功序列ではないですが、基本的には少しずつベースアップしていきます。それは保証しますが、「天井がくるからね」とは伝えています。まったく上がらないということだと家族も納得できないではないですか。
―滞留している年数分は自動的に上がっていくということですね。そのへんはわりとすぐに決まったのでしょうか。
佐藤:そこにあまり迷いはなかったですね。
―あまり他では見ない制度だと思いますが、社員さんも当たり前のように受け止めているのでしょうか。
佐藤:どうなのでしょうね。これまでも少しずつ昇給していったので、そこには抵抗感がなかったようです。前回の評価制度は、ものすごく細かい職能の設定があり、かつチーム評価だったので、それが変わっているという認識は大きかったのではないでしょうか。
社員が主体的に考え、成長を目指す
―先ほど、社長の「雑記」に返信があるという話がありました。文化として、しっかり思考するためにお互い話し合ったり、真っ正面から受け止めたりするという文化は昔から大事にされていたのですか?
佐藤:私が合流して以来は、常にそういうことを思考するようにと日常的に言っています。ただ、それは十分できていないから言い続けているわけですよね。当たり前のレベルが高いのです。例えば、事前申請すれば、自己研鑽のために1万円使えるというのは、他にはないと言われました。成長に関することであれば、どんどんやってほしいと思います。それが芸術鑑賞でも構いません。利用に制限はありませんが、事後にシェアできるようなことをやっているかどうかは問われます。社員が主体的に考えることが大事なのです。シェアの一覧がこれから蓄積されていくので。
―お互いの信頼があってこそですね。対話やシェアの文化は、テレワークになって変わった部分はありますか。
佐藤:みんな良い面で活用しているケースが多いのですが、「コミュニケーションできていないのではないか」という不安の声は上がっています。「リモートで打ち合わせをしているから大丈夫」ということで済ませてはいけません。今までであれば、隣に座っている上司に「これでいいですか?」と聞くことでその場で問題解決できたのに、リモートワークでつかまらないと「まぁいいか」と諦めてしまう様子が散見されています。良い面、悪い面が見えてきましたので、今年に入って改めて、会社としての対応を議論しているところです。
―なるほど。あっという間にお時間がきてしまいました。ありがとうございました。