少し前までは、どの会社も似たような人事制度を運用していて、その会社独自の制度を運用している会社は多くなかったように思います。それは、終身雇用、年功型賃金、総合職重視といった働き方が世間的に一般的であり、会社として求める社員像、期待する能力や役割といったことがどの会社も似ていたからです。
しかし最近は、少子高齢化やITの発達、各人の価値観の多様化、また働き方改革などの法改正や新型コロナウィルスの影響など様々な社会的背景から、急激に「働き方」に対する考え方が変わってきており、それに伴って人事制度も多様化しています。 その結果、会社独自の文化、価値観等を反映するような人事制度を実現しようとする会社が増えています。
会社独自の文化や価値観を人事制度に反映することは、会社としての在り方を表現するためには必須となりますが、文化や価値観に合わない「流行りの制度」を無理やり導入しても歪みが生じ、 うまく運用していくことができません。人事制度は会社としてのメッセージの意味合いを含むものなので、制度を急激に変えるという事は、今まで伝えてきたメッセージが急激に変わるという事にもつながるのです。
かといって時代の流れを無視した旧態依然の働き方や人事制度のままでは、これからの時代に対応することができません。自社の文化や背景、そしてこれからの働き方といったことをバランス良く考えながら、自社に合った人事制度を構築していくことが求められているのです。
人事制度と聞くと、評価制度や賃金制度といった「処遇」に関わることが頭に浮かびがちですが、キャリアコース、等級基準、昇格制度などに会社の文化や価値観を反映していき、評価制度や賃金制度を含めた人事制度全体を連動していくことが重要です。
多様な働き方を実現するキャリアコース
人事制度の軸となる部分がキャリアコースおよび等級基準です。キャリアコースとはその名の通り、会社で働く上でどのようなキャリアを積んでいくことができるのかといったことをまとめた体系図です。会社で働いていく中で、 どのようなコースを歩んでいくことができるかを明示することで、社員に対するメッセージにも繋がります。
育児や介護等といった個人的な事情で働き方が変わることもあるかもしれないですし、また人生の中で働くことへの価値観が変わることもあります。このような時代の中で正社員という働き方にとらわれず、 非正規社員や業務委託など多様な働き方を検討する社員もいるでしょう。そのようなときに会社がどのように、その価値観を受け入れて、社員が求める働き方を実現することができれば採用や定着にも良い影響にも繋がりますし、また多様な価値観が混在することで新たなイノベーションも生まれるでしょう。
また、働き方に合わせたキャリアコースだけでなく、社員の特性に合わせた仕事が出来るようなコースを設けることもあります。それぞれの特性に合わせた業務コースや働き方に応じて貢献してもらうことにより 適材適所の実現を図ります。
会社の価値観を表現する等級基準
等級とは、一定のキャリアごとに分けて、それぞれのキャリアに求める基準を明確にするものです。職務に関する能力を基準としてみるのであれば職能等級、職務自体の難易度や重要度で見るのであれば職務基準、担っている役割の責任度合いや価値などで見るのであれば役割等級といったように、キャリアごとに求めるものによって等級基準は異なります。
一昔前までは、長期雇用、終身雇用といった考えのもと、長い勤務の中で様々な経験を積みながら能力を上げていくといったキャリアが主流だったので、職能等級制度を採用する会社も多かったのですが、今は中途採用はもちろん、兼業などの考え方も一般的になりつつある状況の中で、自社だけではなく、横断的に人材を生かせるような職務等級や役割等級制度を導入する会社が増えてきています。
このような等級制度を設けることで、会社がそれぞれのキャリアに求める基準を整理するとともに、社員に明示することにより、会社が「どのようなことを求めているのか」 ということを明確に伝えることができます。
更に、この等級基準を達成するための評価制度、等級基準ごとの重要度、難易度等を反映した賃金制度を連動していくことも重要です。
組織の文化を反映した評価制度
それぞれのキャリアコースや等級によって、社員の能力も役割も会社が求めるものも変わってきます。
例えば等級が低ければ、定められた手順に従って先輩や上司の指示のもとに自分の業務をミスなく行うということが必要ですが、等級が高くなるにつれて、自分の仕事はもちろん部下のマネジメントが必要になるということもあるでしょう。また専門職として、より専門的な分野を生かして貢献していくということも考えられます。
更に上位等級になれば、経営側の視点を持ち、自社の中長期的な展望や会社全体、あるいは業界のことも考えていくなど、それぞれのコースに求めること、それぞれの等級基準に求めることを具現化するものが評価制度になります。つまり、キャリアコースや等級基準と評価制度を連動していくことが必要になるということです。
評価制度は、人事制度の中で会社独自の考え方が色濃く反映されやすい部分ですが、一般的な視点としては、成果、発揮能力、執務態度の3つに分けることができます。
成果評価
成果評価は、代表的な手法としては目標管理制度が挙げられます。目標管理制度は、その名の通り、期初に立てた目標が達成できたかを期末に評価する制度です。 重要なのは、目標を立てる際、期中、フィードバックと上司と部下でコミュニケーションをしっかり図ることです。評価の手法とともに教育、 コミュニケーションを図る手法としての側面も持ち合わせます。特に最近は、世間や会社の状況が変わることも速く、途中で立てた目標を変更することも良くあります。また、目標の達成度を評価して、給与等の処遇へ反映すると、「新しいこと」や「チャレンジング」な目標は立てづらくなってしまうため、目標の達成度は評価に連動させないという手法もあります。
発揮能力評価
仕事をすすめていくプロセスにおいて、会社の業績向上や立てた目標に直結する能力やそれぞれの役職や等級により発揮すべき能力をどれだけ発揮できたかを評価します。ここで評価されるのはあくまでも行動として表れていた「発揮」された能力です。たとえ能力を有していても、業務において発揮されていなければ評価されません。
執務態度評価
社会人として、組織人として仕事に取り組んでいくうえでの「態度」や「心構え」を評価します。業績、業務に直結しないことであっても、会社で働く仲間として、最低限共有しなければいけないことです。 会社の経営理念への理解や会社へのロイヤリティーも含め、主として「規律性」「責任性」「積極性」「協調性」の4つの視点で評価します。
バリュー評価
成果評価、発揮能力評価、執務態度評価では測れないことについて評価を行います。例えば、組織文化を体現する行動だったり、新たなサービスの種まきとなるつながりなど、会社の付加価値を創造したり、向上させるような取り組みを評価します。直近の業績には直結しないかもしれませんが、中長期的な視野で考えると、必要不可欠であり重要な評価要素となります。
会社の将来を見据えた昇格制度
等級基準をもとに等級が定まりますが、その等級が上がること、また下がることを昇格、降格と言います。 その昇格をどのような基準でどのように決めるかを定めたものが昇格制度です。
等級基準に定められている「各等級に求めること」を満たすように評価制度が紐づいているので、人事評価の結果は昇格に反映させることが一般的ですが、その他にも会社の理念に沿った行動、現在だけではなく業界や会社の将来を見据えた種まき的な行動、部下のマネジメントなど・・・・・・・、
特に管理職や経営層になるためには、会社として、どのような職務能力、スキル、人間力などが必要なのかということをしっかりと整理して、自社にあった必要な要件、基準を設けて形にしていきます。
また、その要件、基準を満たしていて、次の等級に昇格できるかという判断材料としては、人事評価の結果の他にも専門的な技術の実務試験や社内研修の受講歴・・・・・・・・・
一般的には、評価制度による「評価」は、職務上の評価が一般的であり、「仕事ができる人」が当然評価が高くなります。しかし、部下をマネジメントする管理職は会社の将来を担う経営層は、現在の「仕事ができる人」だけではなく、例えば会社の文化や価値観を体現したり、また文化や価値観を具現化して新たな付加価値を会社に加えていくことも求められます。そのため、例えば「クレド」などの会社の文化や価値観に沿った行動や活動をしているかといったことを昇格の基準に加えることもあります。
給与にメッセージを込める賃金制度
人事制度の中で、評価制度とともに重要なしくみが賃金制度です。賃金制度をもとに社員の給与や賞与が決まることになりますので、 とても重要な役割を担っています。
賃金制度には、賃金(給与や賞与)の目的や基準を明確にする必要があります。例えば、これまでは、会社の多くが、「正社員中心」、「長期的な雇用」、「年功的」といった考えのもと、年齢や経験ともに安定的に能力が上昇していき、 その能力に伴い賃金も上昇カーブを描いていく「職能給」制度が主流でした。
職能給制度は、安定的な賃金制度のため、社員が安心してキャリアや人生設計を描きやすいというメリットもありました。しかし、「多様な働き方」が増えている最近では、「同一労働同一賃金」という言葉に表れるように、それまでのキャリアや働き方に関わらず、同じ仕事や同じ役割であれば同じ賃金という「職務給」や「役割給」が増えてきています。
例えば、フルタイムで会社に出社して働く社員であっても勤務時間や勤務場所などが限定される限定社員や在宅社員などの社員であっても難易度が高い「職務」や重要度が高い「役割」に対して給与を決定することが より公平で納得感のあるものになってきているのです。
そういう意味では、年齢給や勤続給といった属人的な給与制度を採用する会社は少なくなってきており、職務や役割に応じた等級基準、あるいは職務ごとに職務記述書等を使いながら、従事している職務や担っている役割に応じた賃金を支給する会社が増えています。
低い等級には、年齢給や勤続給が色濃く反映されたり、等級が上がるにつれて、従事している職務給や役割給として反映したり、給与制度をミックスして支給することもあります。また、基本給は、職能等級に応じた職能給として支給し、 役職や役割に応じた部分は、手当として支給することも可能です。手当は、ルールをしっかり決めておけば、一般的に基本給よりも増減させることもやり易いため、手当に意味付けを持たせることも重要です。
いずれにせよ、「何に対して賃金を支給するのか?」ということを考えながら制度設計していくことが求められます。
制度構築までの流れ
1.賃金分析・現状ヒアリングの実施
年功的になっているのか?役職(等級)と給与はきちんとリンクしているか?同業者平均に比べてどうか?御社の現状の賃金を様々な角度から分析します。
2.人事方針とキャリアコースの確認
会社のニーズや価値観をヒアリングしながらキャリアコースを確認し、人事方針を検討します。
3.等級基準の設定
等級ごとに会社が求める能力、職務、役割、人間性などを検討して具体的に等級基準を作りこみます。等級基準は、昇格・降格のおよび賃金テーブルを作成する際などの基準となります。
4.賃金制度の構築
現状の賃金制度を基に、会社や時代に適した昇給・賞与のあり方、手当などを検討し、社員の生活を守りつつ社員のモチベーションを維持し、さらに、将来までも持続的経営可能な賃金体系を構築します。
5.評価制度の構築
それぞれのキャリアコースに応じ、また各等級基準を満たすように評価制度を構築します。キャリアコース、等級基準、賃金制度に連動した評価制度を定めていきます。
6.現状社員の賃金移行作業
新しい賃金制度に、現状社員の賃金を当てはめ、移行していきます。その際、不利益にならないように、制度移行の猶予期間や調整給等を決めていきます。
7.社員説明会および就業規則類の改訂
新制度の社員説明会や新しい評価制度の評価者に対して考課者訓練を必要に応じて実施します。また、制度移行による就業規則や賃金規程の改訂を行います。
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